川崎汽船【9107】

トランプ関税の発動で最近株価が下がっている川崎汽船を調べてみました。

<三大海運会社とONE>

  • 日本には商船三井、日本郵船、そして川崎汽船という三大海運会社が存在し、海に囲まれた日本の海運3社は世界トップレベルの海運会社でもある。
  • 三大海運会社はバリュエーション豊富な海運事業を営んでいるが、昨今ではコンテナ事業を除いた事業の利益率は低く、コンテナを除いた業績は横ばいが続いている。
  • 赤字を垂れ流してお荷物事業とみなされていた三大海運会社のコンテナ事業が切り出され、ひとつの会社として設立したのがONEである。合従連衡が進むコンテナの競合他社に倣って規模を追求し、加えて各社が有する海運ネットワークをひとつにまとめた。出資比率は川崎汽船と商船三井が31% 日本郵船が残りの38%。そのONEがここ数年は巨額の利益をたたき出した。市況が良いときのONEの営業利益率は驚異の5割である!
  • なぜONEは巨額の利益をたたき出したのか? ① 2020年3月からのコロナショックによる巣ごもり需要で生活必需品をメインで運ぶコンテナの需要が増えたため及びコロナにより港湾で働く作業員が減少したためコンテナ運賃が上昇、② 2023年12月からの中東情勢悪化によるスエズ運河運行回避によりコンテナ船の移動距離が増えてコンテナ占有期間が長くなりコンテナ需要が増えたため
  • コンテナ事業は船を買うだけでは終わらず、コンテナの購入やコンテナ専用港の整備など巨額の設備投資が必要な装置産業である。固定費が大きいビジネスであるため利益は市況(運賃)に左右される。
  • コンテナ運賃は非常に乱高下しやすい。景気、港湾でのストライキ、船の供給量変化、政治的な要因、原油価格などの影響を受ける。
  • コンテナは生活必需品の輸送がメインであり、アジア発⇒北米行き、アジア発⇒欧州行きがメイン航路である。ちなみに帰りの北米発⇒アジア行き、欧州発⇒アジア行きの積載率は行きの半分となる。
  • ONEは世界6位の規模であり、単独ではなくアライアンス(他社との同盟)の目線で把握する事も重要である。自社には無いネットワークを持つ他社と組むことで受注の幅が広がる。現在は大きく三つのアライアンスに分けられる
  • コンテナ業界は合併や破綻などが目まぐるしい。コンテナビジネスの全体を理解しているのは世界に50人ほどしかいないと言われるほど奥深いビジネスである。その50人が業界再編を主導している。

<川崎汽船の概要>

  • 2021/3期 売上高756,983百万円、営業利益17,663百万円、経常利益657,504百万円
  • 2022/3期 売上高942,606百万円、営業利益78,857百万円、経常利益690,839百万円
  • 営業利益はコンテナを除く事業が稼いだ利益であり、経常利益の増加分は持分法適用会社であるONEが稼いだ利益である。昨今の川崎汽船の株価高騰はONEの業績によるものである。
  • 2023/3期 売上高962,300百万円、営業利益84,763百万円、経常利益135,796百万円、経常利益が落ち着いておりONEからの業績寄与が大きく下がっている。2024年後半から運賃は下落が続いている。

<ONE次第の川崎汽船への逆風>

  • 2025年3月3日、ONEが3.7兆円投資して輸送力3割増を決定した。船は発注から完成まで3年前後の時間が必要であり、加えて利益貢献するのは竣工から20年後という長期スパンである。好況が落ち着いたタイミングでの発注はコストが安く(現在は落ち着いている)、大きい船を発注すればコスト競争力は高まるが、市況が悪化すれば最大手でも赤字になる。
  • 2024年は記録的な新造船の発注ブームとなり、今後は船の供給圧力が高まることが予想され、コンテナ運賃の下落につながる。
  • 香港企業が保有していたパナマ運河を米資産運用会社ブラックロックなどの投資家連合に売却すると合意。中国船への締め付けを強める可能性があり、物流が減る可能性あり。
  • 中国で建造された貨物船とそうした船舶を所有する企業を対象に米国が利用料を賦課するとの報道があり。もし実行された場合、コンテナ輸送料が25%上昇する可能性があり、物流への需要が減少する。中国は23年時点で世界の新造船受注の約7割、世界の主要港湾に占める輸送量で約4割を握る。
  • トランプによる関税政策により、各国が関税を上げ始めれば世界の物流需要が下がる。
  • トランプによる円安是正の要望により円高になれば、日本の海運会社の決算時での為替のマイナス影響は大きい。
  • 景気悪化により消費が落ち込むと生活必需品を運ぶコンテナの輸送が減るため、世界の景気減速による影響はネガティブ要因である。
  • スエズ運河で海賊行為や商船への攻撃をしているフーシ派に対してトランプ政権は強硬な姿勢を取っている。スエズ運河を通れるようになればコンテナ運賃は下落する。
  • 商船三井や日本郵船に比べて、川崎汽船は全事業に占めるコンテナ事業の比率が圧倒的に高い。

<その他ネガティブ要因>

  • 米国の輸入自動車に対して25%の追加関税が発動された。日本から米国への輸出品で最も多いのは自動車である。2024年の車輸出は対米輸出総額の28.3%を占めた。川崎汽船のコンテナ事業以外への影響も大きい。
  • 海運会社は典型的な循環株であり、株価は上がっては下がるを何度も繰り返している。そして、株価が上がっている時期の方が圧倒的に短い。長期保有すべきではない企業である。株価が上昇する前の5年前の株価はなんと106円である。
  • 何十年も遡り、川崎汽船の過去の株価暴落前の決算説明資料を調べると、市況の悪化を予想できたことはなく、業績予測はあまり当てにならない。外部要因の影響が大きすぎる業界である。

投資は自己責任です。

<2025年4月20日 追記>

  • 中国からアメリカへの輸出について、アメリカ以外の国へ輸出してその国からアメリカに輸出する迂回ルートの可能性あり⇒コンテナ船の運行距離が伸びるのでコンテナ運賃上昇⇒しかし、アメリカとの関税交渉でその国が中国と貿易するのを制限する可能性あり⇒コンテナ需要は減少
  • 中国にとって最大の輸出国であるアメリカに代わる国は今のところは無く、アメリカ向けの輸出を捌ける先が無い
  • 中国のアメリカからの輸入も同様。アメリカに代わる国からの輸出も制限を受けてシュリンクする
  • 中国船舶への利用料の賦課が実施されることに。物流の混乱によりコンテナ運賃の上昇が見込まれるため海運会社の株価が反発(ちなみにONEの保有する中国船舶の割合は低い)⇒これからも様々な要因で混乱が生じてコンテナ運賃の上昇が見込まれるが、需要の増加にもとづいたものでなければいずれ運賃は下がるのではないか?
  • コロナ禍⇒生活必需品のニーズが高まりコンテナ需要が増加、スエズ運河閉鎖⇒運行距離が伸びてコンテナ運賃が増加、トランプ関税⇒貿易ニーズの減少によりコンテナ需要が減少?
  • 3年後にLNG船舶を制限するとアメリカが発表⇒川崎汽船はLNG船舶に力を入れており今後多くのLNG船が竣工予定
  • 4割弱を保有するエフィッシモが保有割合を増加⇒大量保有報告書の保有目的は純投資であり、かつ、議決権に加算されない期末過ぎての購入なので、重要提案というよりは株価の上昇を見越しているのか?⇒株主提案するならば総会8週間前が期限なので来週中に何か動きがあり
  • 空売りした場合、海運の外部環境に寄らずとも、株式市場全体の暴落でリターンを得られる可能性あり

<2025.05.29追記>

・海運大手3社の中で最も自動車とコンテナの比率が大きい(営業利益に占める割合はほぼ100%、他2社は75%程度)。最もトランプ関税の影響を受ける。

・当社の株価はトランプ関税前に戻ったが、ファンダメンタルは確実に悪化している。通常、空売りは損失無限大だが、当社の株価は上限に近いと想定されるため損失無限大の可能性は低い。そして、浮動株比率は8%と低く、一度株価が下がり始めると崩れやすい

・当社の自動車輸送の利益予想は、商船三井の倍と楽観的である(中国船舶への利用料賦課の影響を加味していない)。現在、自動車メーカーに利用料の負担を打診中であるが、自動車メーカーの業績予想も厳しいため交渉がまとまるのか疑問

・ハマスの最高指導者が殺害された。スエズ運河でテロ活動をしていたフーシ派はすでに米国とは停戦合意済みであり、ハマスとイスラエルが停戦すれば船舶への攻撃を止めることに合意する可能性あり。スエズ運河が開通すればコンテナ運賃が下落する。

・7月上旬はEUと米国の相互関税停止期限である。6/1期限を7/9に延長することなったが、ふりだしに戻っただけである。各国の寄せ集めであるEUがまとまるのか?米国に負けず劣らず自国優先のEUが譲歩するのか?EUは交渉決裂したら報復関税をすると発表している。

・7月上旬は主要国と米国の相互関税停止期限である(主要国以外は米国が一方的に関税を通達するが貿易量も少ないため影響は軽微か)。本日トランプ関税は違法との判決が出たが、トランプ政権は今後どのような行動を取るのか?(当初より違法判決が下されることは想定済みと思料)ちなみに日本に対する自動車関税は違法判決の対象外である。

・8月上旬は米中の相互関税停止期限である。米中どちらも強気であり、ジャイアン同士どこまで歩み寄れるか?期間も短くハードルは高い。アメリカ政府のマンパワーも足りない。そもそも、米中で相互関税を停止した際に、トランプ大統領は訪中して習近平と会うと発表していたが実現していない。両者の溝は大きい。

・米中の相互関税90日停止により当該期間においてコンテナ需要の拡大が見込まれる。しかしながら、当社はトランプ関税前からコンテナ船舶の供給増加によりコンテナ部門の大幅な減益を予想している。関税30%もいまだ影響大きい。3月の需要前倒しの反動もあり。サプライチェーンが混乱して対応できるのか?

・中国がフェンタニルの対策を強化すれば、米国の関税20%(フェンタニル対象部分)が停止する可能性あり

<2025年9月16日 振り返り。空売りを手仕舞い>

 EUは一枚岩でないから米国と関税合意できずに報復関税合戦になると思ったが、逆に一枚岩でないからEU全てに痛みを伴う報復関税ができずにトランプと合意してしまった。そして、トランプから提案のあったEUによるロシアへの関税制裁も同様に実行できないと思料。EU加盟国のハンガリーとスロバキアは親ロシアである。

 付加価値の低いコンテナは関税をかけられるとコストを吸収できないため、想定通りに輸出量も単価も減り続けたが、自動車は付加価値が高いため関税を吸収し輸出量が全く減らなかった。そもそも自動車船は中長期契約なので業績変動は小さい。

 米国と中国というジャイアン同士の喧嘩がまとまる可能性は低いと思ったが、中国がレアアースというカードを切って米国が矛を収めた。レアアースに首根っこを抑えられているため、半導体追加関税やロシア制裁のための中国追加関税も実行は難しいだろう。特に後者のトランプの言い訳として、実行出来そうにないEUに対して、EUが関税を課したら米国も課すと言及し、ウクライナ停戦の責任をEUのせいにしようとしている。

 商船三井は今期の業績悪化に合わせて配当を減額したが、反対に川崎汽船はエフィッシモが大株主であるためか、財務悪化を覚悟で配当増額を発表。高い配当利回りが株価下落への耐久性を高めた。

 面倒くさがらずに想定したストーリーでのバリュエーションを算定すべきだった(そうすれば4月のトランプ関税発動時の暴落が底値であると分かり空売りの買戻しができた)

 トランプ大統領という他者の行動予測をしてしまったのが最大のミスだった。ここまでタコるとは思わなかった。想定したストーリーがズレてきたタイミングですぐに手仕舞うべきであった。

過去最大の損失を計上したが、学ぶことも多く、それを慰めとしたい。投資は自己責任です。